目撃場所/ビル内非常用脱出装置


病人でもないのに、いつ死んでもおかしくない人。それはピクトさん。「ビルの上からロープで吊される」という経験をしたことのある人は滅多にいないだろう。私もない。おそらく経験しないまま死んでいくと思う。しかしピクトさんにとって、こんなことは日常茶飯事である。平凡な人生ではないことだけは確かだが、私はピクトさんが不憫でならない。不憫(ふびん)。手元の辞書には『かわいそうなこと。気の毒なこと。また、そのさま』と書いてある。まさにピクトさんのためにあるような言葉である。この際、辞書の説明にもぜひ「ピクトさんのようなさま」という一文を加えてほしい。全然関係ないが辞書の「不憫」の項の近くに「プフェッファー」という項目がある。ドイツの植物学者だそうである。プフェッファー。気に入った。プフェッファー。なんだかうまいビールを飲んでいるような感じがするではないか。かけつけ一杯、そしてプフェッファー。ドイツ人だし。


酒を飲むと死ぬ。飲まなくても死ぬ。
ドイツの諺